(速水 視点)
伍代に促されるまま、竜一に別れを告げて同じマンションの最上階へと向かった。部屋に入ると、僕はすぐにシャワーを浴びた。体中が自分の精液でべたついていたからだ。
冷たい水流を浴びながら、ふと竜一の触れた箇所が熱を帯びるのを感じた。――その手は、ほとんど全身に及んでいた。
ただ一つ、アナルだけは触れられなかった。
あの時、カライキの射精感に気が狂いそうになった僕は、泣きながら竜一にアナルへ触れてほしいと必死にねだった。だが、苦しげな表情の竜一はその願いを拒んだ。
代わりに彼は、優しく僕の唇を奪ってくれた。抱きしめ合い、互いの口内を深く貪った。熱病に冒されたような時間が、そこで過ぎていった。
多くの思いを洗い流すように、僕は冷たいシャワーに身を委ね、体の熱を鎮めた。
浴室を出ると、脱衣所には真新しい着物と下着が整えられていた。伍代が用意したに違いない。
彼は今や護衛というより、世話係のようになっている。……それでいいのだろうか? 不満はないのだろうか?
今回、伍代が薬入りのマムシドリンクを僕に飲ませたせいで、竜一をこんな穢れた行為に巻き込んでしまった。
伍代は本当に僕を励ますつもりで飲ませたのだろうか? それとも嫌がらせのつもりだったのだろうか? ……彼の思考は突飛すぎて、僕にはどちらとも判断できなかった。
けれど考えてみれば、女を抱く“性奴隷”の身から組長の信頼厚い護衛に抜擢されたのに、その護衛相手が組長の“愛人”とは名ばかりの性玩具……つまり同じ“性奴隷”では、不満も溜まるはずだ。しかも護衛だけでなく、今では僕の世話係まで務めているのだから。そう思うと、伍代の気持ちを推し量って気の毒にさえ感じる。
(速水 視点)まずい、まずい、まずい――。竜二が、ものすごく凶悪な顔をしている。もう“やくざ”どころじゃない……殺人鬼の顔だ。ま、まさか拳銃なんて持ってないよな?ここで警察と揉めて体検査されて、もし拳銃が出てきたら――竜二が銃刀法違反で捕まるなんて洒落にならない。ついこの前も「ムカデ男」の件で竜二を巻き込んだことを清二さんに怒られたばかりなのに……。ああ、本当にいつか清二さんに殺されるかもしれない。もしも目の前で「死ね」と命じられたら……泣くかもしれない。そんなことを考えた瞬間、涙がにじんでいた。「どうしました、速水さん?泣くことなどありません。もう襲われることはない。私があなたを守ります……大丈夫ですよ、速水さん。怖くない」「……署長さん。僕は怖くて泣いているわけじゃありません。子供じゃないんですから」「ですが、泣いている」「泣いているのは……自分の行為を恥じているからです。助けを求めた少年に、何も考えずレジカウンターの下に隠れるよう指示してしまった。そのせいで秋山はけがをしました。もし、彼が店を辞めることになったら……僕は耐えられない。だって……僕は秋山のことが大好きだから……」その言葉に、その場の全員が固まった。……いや、秋山。おまえまで固まるなよ。僕に「好き」と言われるのは、そんなに嫌か?まあ、そうだろう。だって彼女ができたらしいもんな。くそ……秋山。同じ“尻掘られ組”なのに、なぜ彼女ができる?そのコツを教えてくれ。
(竜二 視点)――まただ。“ムカデ男”の時と同じように、俺は躊躇して速水を危険に晒している。唇を強く噛みしめ、俺は花屋“かさぶらんか”へと全力で駆け出していた。刑事どもの動きは思った以上に鈍い。……指揮官不在ってとこか。俺はその脇をすり抜けるようにして、花屋“かさぶらんか”の店内に踏み込んだ。視線を素早く隅々へ走らせる。床には、茶髪のガキが倒れ込んでいる。そのガキを刑事二人が押さえ込み、手には剪定ばさみと万札が握られていた。レジカウンターの傍には秋山。手の甲から血を流しているが、傷は浅いようだ。そして――速水。壁に押し付けられるようにして、男に抱きしめられていた。その男は速水を胸に抱いたまま、床に転がるガキと刑事たちを“見守っている”ように見えた。だが違う。視線の奥にある関心は、ガキでも刑事でもない。あくまで――その腕に抱き込んだ速水ただ一人だと、俺は本能で理解した。速水の肩には男の右腕が絡みつき、震える腰には左腕が回されている。……こいつを俺は知っている。街をふらつき、独り歩きする変人署長。ノルマ以上に風俗店へガサ入れを仕掛け、未成年を扱う店を徹底的に潰そうとする男。――後藤一成警視。この街を管轄する西成東警察署の署長だ。だがな。おまえに速水を守る資格はねぇ。速水はひどく震えている。後藤署長に抱きしめられることに、恐怖を感じているんだ。
(竜二 視点)俺は、夕方から突然始まったガサ入れへの対応に追われていた。調べの結果、青山組が管理する風俗店が対象ではないことは分かったが、事態が落ち着くまでは事務所で待機するよう命じられていた。「竜二さん。やっぱり今回のガサ入れは、未成年のガキを扱ってる店でしたね。青山組とは関係のない、しょぼい組織が運営してましたけど……売上はなかなか良かったようですよ。未成年の男女を舞台に裸で立たせて、そのあと客が指名して生セックス、って形式の店みたいです」俺の生まれ育ったこの街は、西成東警察署の管轄にある。前署長の頃は、警察上層部からガサ入れのノルマが示されると、その情報が青山組に流されていた。青山組もまた、管轄署がノルマを達成できるように、都合のいい店を差し出して“協力”してきた。――つまりは、持ちつ持たれつの関係だったわけだ。だが、新しく後藤一成警視が署長に就任してからは、状況が一変した。ガサ入れ情報がまったく入らなくなり、事前の連絡すらない。蜜月の関係は唐突に断ち切られ、この街全体がぎくしゃくしはじめている――そんな不穏な空気を、肌で感じていた。「やっぱ、ガキを扱うと売り上げが跳ねるよな」俺がぼやくように呟くと、部下が渋い顔をしてこちらを見てきた。「竜二さん、今はマジで時期が悪いですよ。新しい署長が就任してから、警察はノルマ以上に風俗店のガサ入れしてるじゃないですか。特にガキを扱ってるところは集中砲火ですよ。……だから、手は出さないでくださいよ?」「本気で言ってるわけじゃねえ。叔父にも止められてるしな。……でも、管理してる店の店長が内緒でガキを扱うケースだってあるだろ? それをチェックするのがめんどくせぇんだよ」
(速水 視点)警察には、僕も青山組関係者の一人として名前が上がっている。清二さんが前にそう言っていたけど……本当なのだろうか。外扉は開いていたが、誰一人中に入ろうとしない。僕は思い切って扉の外へ出て、にっこり笑った。いつの間にか、五人の男が店先に集まっている。「花屋『かさぶらんか』へようこそ。オーナーの速水誠です。ご来店ありがとうございます。どのようなお花をご希望でしょうか?」「……速水誠さん?」「はい、そうです」僕の名を確認した男は表情を引き締め、真面目な声でゆっくりと口を開いた。「速水さん、営業中に申し訳ありません。私は西成東警察署の刑事・小林と申します。実は近くで風俗店のガサ入れをしておりまして……もちろん、“ガサ入れ”の意味はご存じですよね? その店で働いていた少年が逃げ出したんです。現在捜索中でして、店内に入り確認させていただきたいのですが……ご協力いただけますか?」――所轄がガサ入れを行う時は、いつも竜二から事前に警告があるはずなのに。今回に限って、何の情報もなかった。突然のガサ入れなのだろうか? ……うーん。さて、どうする……。この店自体がターゲットじゃないのは確かだが――。「うーん、“ガサ入れ”って言葉は刑事ドラマで聞いたことがあるので理解できます。確かに、店舗内に茶髪の少年が突然やってきて、『やくざに追われてる』と言うので、僕がレジカウンターの下に隠れるよう指示しました。&hell
(速水 視点)三原は“かさぶらんか”の店先で花に水をやりながら、突然僕に話しかけてきた。「なぁ速水。俺、思ったんだけどさ……そろそろ新規顧客の開拓してみねー?」「……三原、突然だな」「だってさぁ、今の“かさぶらんか”の顧客って青山組関係ばっかだろ? もしおまえが青山組と縁を切られたら、一気に客を失うことになるぜ?」「……確かに」返事に窮して、僕は言葉を濁した。三原の母親は清一の愛人だった。だが僕に剃刀入りの花束を送りつけたことで清一の怒りを買い、援助をすべて打ち切られた。そのうえ人身売買の斡旋業者にも見限られ、店の経営は一気に傾いた。そして母は借金だけを息子に残して世を去った。「まあ、そうだよね。青山組との縁が切れた時点で店の維持は難しい。……その時は、僕も三原も秋山も、三人そろって終わりかも」「……まじか」「だったら三人で夜逃げしようか?」「俺は速水と一緒に逃げてもいいけど……秋山は無理だろ。最近、彼女ができたらしいからな」「まじかっ!!」僕は思わず目を見開いて三原を凝視した。その視線に耐えきれなかったのか、三原はジョウロを置いてこちらに歩いてきた。「考えてみろよ。あいつの容姿と体格、女が放っとくわけないだろ?」「そんなぁ……秋山と僕は同じ&l
(清二 視点)速水の目から涙がぼとぼとと溢れる。その体は薄紅に染まり、甘い吐息を俺の首元で吐きだした。それだけで、俺はぞくぞくしてイキそうになる。「厄介だ……。お前は、全く厄介な奴だ。このままでは、兄弟で血みどろの争いになりかねん……くッ」「んんッ、はァ……もういって、清二さん。精液……頂戴」「はは、都合が悪くなれば"性奴隷"のふりか?」俺は再び速水をうつ伏せにしてその耳元で囁いた。「俺は、何時までお前を守れるか……わからん。組長の座を奪われたら……お前も奪われる」「清二さん……きて……ッ!」腰を一突きするだけで、速水はシーツに埋もれた。乱れた速水の髪が色っぽくて、俺のペニスが限界に達する。俺は一気に速水の最奥を貫いて精液を吐き出していた。とろとろと流れ出す白濁が速水を卑猥に穢す。「はぁ……はぁ……はぁ」「なか……いっぱい……。んんァ……」速水には秘密だがーー女の尻に突っ込むことに成功した後、確認のため男を抱いた。男の前でも勃起することに満足した。だが、実際に男を抱いてみると、速水とはまるで違っていた。緩いアナルに嵌められ喜ぶ男や、男を咥え泣いてよがってみせる男もいた。だが、どの男を抱いても――速水を抱いた時に覚える、あのぞくりとした“恐怖にも似た興奮”を味わう